奨励賞 歴代受賞者のコメント

平成30年度 第28回 奨励賞

岡村 裕美子 氏
平成30年度奨励賞を受賞して

この度は、日本心理臨床学会奨励賞を授与いただき、誠にありがとうございます。
心理臨床について多くのことを教え、鍛えて下さったクライエントの皆さま、職場スタッフの方々、共に学びながら臨床の道を歩む仲間の皆さま、そして今日まで未熟な私を支え、導いてくださいました先生方に、こころより感謝申し上げます。
この度、このような大きな賞をいただきましたことは、これまでアカデミックな世界に縁遠かった私にとりまして全く思いもよらない出来事であり、戸惑いのほうが大きいというのが正直なところです。ただ今回、日頃スポットライトの当たることの少ない、精神科病院臨床における地道な支援の取り組みに目を留めていただいたこと、またこの度の受賞を周囲の心理士の方々がとても喜んでくださったことは、私にとって大変嬉しい出来事となりました。そのような意味でこの賞は、重篤な精神疾患を抱えたクライエントの方々への援助に日々悪戦苦闘しながら携わる、多くの現場の心理士の皆さんの代表としていただいたようにも感じられ、改めて気持ちが引き締まる思いでおります。
長年勤務してきました医療、教育現場での臨床実践におきましても、日々悩みや迷いは尽きませんが、なかでも研究活動に関しましては、まだまだ暗中模索のなかにあり、本当にスタートラインに立ったばかりと痛感しております。この度の受賞を励みに、臨床での個人的経験を少しずつ丁寧に実践の知へと修練し、育てていただいたクライエントの皆さまに少しでもご恩返しができますよう、こつこつと研鑽を続けて参りたいと思います。この度は、本当にありがとうございました。


清水 亜紀子 氏
平成30年度奨励賞を受賞して

この度は,日本心理臨床学会奨励賞という身に余る賞をいただき,畏れ多くありながらも,大変嬉しく思っております。
今回,受賞のご連絡をいただいた際,二つの思いが私の中から湧き上がってきました。
一つは,一度は大学教員として就職したものの,一念発起して臨床現場に身を投じてみようと
思った自分自身の覚悟は間違っていなかったのだろうという思いです。大学教員時代は,教鞭を取りながらも,どこか自分自身の臨床家としての土台の不安定さを感じておりました。そうした自らの自信の無さもあり,臨床現場にどっぷりとつかる体験を求めて,総合病院という現在の職場に入職するに至りました。そして,現在の臨床実践の中心が,緩和ケアを主とした身体科領域,小児科領域であることを考えると,この度の受賞対象論文(心理療法を通して,癌を生きる体験世界,母親として生きる体験世界に私が初めて触れた事例研究)は,まさに自らの臨床の原点とも言える体験の詰まった論文であり,それらを評価いただいたことが非常に感慨深く思われました。
もう一つは,まだまだ未熟ではありますが,臨床家としての私をここまで鍛え上げて下さったクライエントの皆さまに対する畏敬の念と感謝の思いです。緩和ケアを中心に活動しているため,この約5年半の間に,多くの方々があの世へと旅立っていく過程に寄り添わせていただいてきました。そうした方々に想いを馳せると,今回の奨励賞は,あの世から,「この世での修業がまだまだ足りんぞ!!」と叱咤激励されているようにも感じられ,改めて気持ちの引き締まる思いを抱きました。
臨床現場に身を置きながら研究を続けることは,能力のない私にとってはとてつもなく大変な作業でした。しかし,その一方で,終末期臨床という厳しい世界を私が生き抜くためには,心理療法について言語化することが必要不可欠な営みでもあったと感じております。自己愛的と言われても仕方のないことですが,地を這うような思いをしながら,忙しさのあまりに大切な何かが流されていきそうになる中,言葉にすることで,何とか楔を打ち,自分自身がやってることの意味を必死に求めてきたように思います。そして,奢った言い方になるかもしれなせんが,事例研究という形であの世に旅立たれた方々との心理療法について言葉にすることが,その方々がこの世に“生きた証”になるのだと信じてきました。
クライエントの皆さまだけでなく,私はこれまで本当にたくさんの方々と出会い,支えていただいてきました。学部生の頃より,長らくご指導いただいています岡田康伸先生,藤原勝紀先生,山中康裕先生,大山泰宏先生,大学院時よりご指導いただいています皆藤章先生,伊藤良子先生,河合俊雄先生,桑原知子先生,角野善宏先生,松木邦裕先生,田中康裕先生,高橋靖恵先生。樋口和彦先生,川戸圓先生をはじめ,臨床の基礎から指導して下さったスーパーバイザーの先生方。折に触れて気にかけて下さっている成田善弘先生,岩宮恵子先生,岸本寛史先生。心理臨床学会をはじめ,様々な学会での研究発表,論文投稿を通して,非常に有益なご示唆をいただいた指定討論者・査読者の先生方。京都文教大学,こどもパトナカウンセリングセンターなど,これまで働いてきた多くの職場において,様々なことを教えて下さった先生方。外科医でありながらも,非常に深い次元で心理臨床についてご理解いただいている山本栄司先生をはじめ,現在の職場の皆さま。諸先輩方や後輩,実習指導の学生の皆さま。そして,互いに切磋琢磨してきた大学院同期の仲間,いつもそばにいてくれる家族。この場では到底書き尽くすことのできない多くの方々の支えがあったからこそ,今も私は日々の臨床に励むことが出来るのだと改めて実感しております。お一人お一人の方々の慈愛に,この場を借りて,こころからの感謝を申し上げます。
死を前にした極限の中でも,いやむしろ,そうした極限の中でこそクライエントの方々はそれぞれの個性を発揮されるように感じております。ただ,それは,終末期のクライエントの方々に限ったことではなく,私を含めた全ての人が持っている心理的課題であると思われます。まだまだ未熟で,失敗も多い人間ではありますが,今後も,人がいかに生きいかに死んでいくか,そこに寄り添っていける臨床力を日々磨いていきたいと思っております。今後とも,皆さまの厳しいご指導とご鞭撻のほどを,何卒よろしくお願いいたします。

平成29年度 第27回 奨励賞

上田 琢哉 氏
2017年度奨励賞を受賞して

 このたびは日本心理臨床学会奨励賞をいただきまして、大変光栄に存じます。ご指導いただいた先生方、知的な刺激を与えてくれる友人たち、何より多くのクライエントの方々に心より感謝申し上げます。
 今回の受賞を一番喜んでくれたのは下の娘で、それまで父親が一体何の仕事をしているのかさっぱりわからなかったみたいですが、「少なくとも何か仕事はしているようだ」、「運動会みたいなものでメダルをもらったようだ」と、娘なりに少し安心したみたいでした。
 私が本賞をいただくきっかけになったものは、「見る」と「眺める」という枠組みで意識のあり方を考察したいくつかの事例論文だと思います。意識とは何か、という問題は心理療法の本質にかかわるものでありましょう。同時に、海の果てにあるという伝説の島みたいなもので、気の遠くなるようなテーマでもあります。私の論文は、そのテーマに向かって、遠回りしながら、なんとか自分なりに近づくルートを発見したという程度ですが、少しでもこの分野のお役に立てば幸いです。
 私は、現在の大学に勤務するまで、教育相談の領域で働くごく普通の一人のカウンセラーでした。ただ大学時代の恩師が、「君は臨床の現場に出ても研究だけは続けなさい」と言ってくださっていたおかげで、細々と研究を続けてきたようなところがあります。私の研究のスタイルは、ただ心理面接をし、そのうち自分にとって大事だと思うことがあれば時間をかけて事例論文を書くということを繰り返してきただけのシンプルなものです。テーマや書き振りは決して多くの人に好まれるようなものではなく、むしろ好き嫌いが分かれるところがあるようにも自覚しています。ただ、そのような拙い論文を、自分と直接面識のない先生方がどこかで読んで評価してくださっていたということが、賞をいただいたこと以上に、何よりうれしい気持ちがします。そのことはもちろん私自身のこれからの励みになりますし、きっと心理療法という営みに真摯にかかわっている若い人たちの励みにもなるのではないかと思います。そのようなことについて、ここでもあらためてお礼と感謝をあらわしたいと思います。本当にありがとうございました。

平成27年度 第25回 奨励賞

上田 勝久 氏
平成27年度奨励賞を受賞して

 このたびはこのような栄えある賞を授与していただき,こころより感謝申し上げます。
 受賞対象となった論文は『箱庭制作の体験プロセス』と『心理療法空間を支えるもの』という二論文です。前者は箱庭体験の内実を実証的に探索した研究であり,後者は中断事例を振り返ることで「心理療法の根幹となる要素」を抽出しようと試みた論考です。共通するのは,臨床的な場もしくはプロセスにおいて生起する事柄を探求しようとしている点です。
 昔から私は「それはそういうものなのだ」と周囲が普通に納得している事柄に対して,たえず首をひねっている子どもでした。なぜシンデレラのガラスの靴だけ魔法が解けずに残ったのだろうか,なぜ空気がいつもあるのだろうかと深刻に悩む子どもでした。小学校3年生時に「宇宙は広がっている」と教えられた際には,「“広がっている”ということは,宇宙の周りにはさらに“まだ宇宙になっていない空間”が存在しているのか」と考え,そのあまりの得体の知れなさにひとり勝手に震撼していました。
 こうした物事を当然視できない性向は,この職に就くまでほぼ何の役にも立ちませんでした。しかし,いまではこの厄介な資質に感謝しています。現場に立ちはだかる,痛ましく,悩ましい,種々の心理的な問題に取り組むとき,「なぜ,事はそのようになっているのだろう」という問いかけが,常に支援のための最初の一歩になっているからです。
 研究においてもそうです。心理療法や心理臨床的な支援が人や社会に対して一定の効果をもつ理由について,私はまだよくわかっていません。上述の二論文はこの「わからなさ」から生まれたものです。さらには「本当にこの営みは効果をもっているのだろうか」,そもそも「“効果がある”とは何を意味しているのだろうか」という疑問さえあります。もし,この心理臨床文化が何らかの理論や思考をある種の教義として信奉する文化であったならば,私などはとうに破門されていたかもしれません。
 本学会にはこのような疑問やクリティカルな思索を受け入れる懐の深さがあります。精神分析家であるパトリック・ケースメント氏の著書に「サンスクリット語では,certaintyはimprisonmentを意味し,non-certaintyはfreedomを意味する」という一節がありますが,本学会にはまさにこの種の哲学が備わっています。そして,何よりも,本学会は多くの人が当然視している事柄にひっかかり,疑問を抱き,もしかするとそれゆえに苦しんでいるかもしれない個人の魂を抱える器になっているような気もします。
今後もこの貴重な学会の発展に微力ながら貢献できればと考えています。
ありがとうございました。


野村 晴夫 氏
平成27年度奨励賞を受賞して

 思いがけず奨励賞を頂戴しまして,誠にありがとうございました。賞などというものとは小学校の作文以来,縁のない私に,授賞に加えて,このような御礼の機会まで設けて頂き,恐縮を通り越して,言葉もございません。
 もともと,人前で話す,ましてや自分について語るのが苦手なことは,自他共に認めるところです。その苦手意識が,「自己語り」をテーマとしたいくつかの論文化を,後押ししたのだと思います。受賞対象の論文の一つは,クライエントが家族のことから語り始めて,やがて自分のことを語っていく中で,どうにも語れないことにぶつかるのですが,それはそのままに,当座の落ち着きを得るまでの流れを描写したものです。もう一つの論文は,自分の歩みを語るインタビュー調査を終えて一人になってみると,その歩みがまた違ったふうに思い返される様子をまとめたものです。
 どちらの論文も,語りをテーマに始まりながら,むしろ語られないことに焦点づけられて終わっているところが,共通しています。語らないこと,語れないことの重みに目を向けるという点では,心理臨床に携わる方にとって,目新しくない論文でしょう。その程度の論文で受賞したのかとお叱りを受けそうですが,大学では動物実験しかしたことがない,ヒトには不慣れな私を,ここまで育ててくださった皆様に,深く御礼申し上げます。

平成26年度 第24回 奨励賞

吉村 隆之 氏
2014年度奨励賞を受賞して

 この度は歴史ある心理臨床学会の奨励賞を頂戴し,誠にありがとうございました。
当初,受賞のお知らせを拝見した時は一瞬何のことなのかわからない状態に陥りましたが,その後お知らせの中身が理解できていくのと同時にありがたい気持ちが湧いて参りました。賞を頂戴したことで私自身が何か変わった訳ではありませんが,とても大きな励ましをいただき,大変ありがたいことと感謝しております。
受賞対象となった二本の論文は,私がスクールカウンセラー(以下,SC)をしながら感じていた,「SCが学校で良い仕事をするには,どのように学校へ入って活動を作っていくと良いのか」という“学校への入り方”に関する問題意識が元にあります。
日本で公立中学校の一部にSCが初めて配置されたのは1995年で,私がSCとして初めて勤務したのは2001年でした。SCが配置される学校が増え始め,学校臨床に関する論文や書籍も徐々に増えている頃でした。自分なりにこうした論文や本は勉強したつもりでしたが,それでも学校によって求められることはかなり異なり,時には求められていないように感じることもあり,学校へどのように入って活動を形作っていくと良いのか迷いがありました。学校では,これまでのSCの実践に対して好意的な意見を聴く一方で,それ以上にネガティブな意見も多く聞きました。こうした経験を重ねるうちに,次第に学校現場で「何を」するのかよりも,それを学校の先生方と関係を作りながら「どのように」行うのかの方が,私としては気になるようになりました。そうした感覚を出発点として,次第にカウンセリングやコンサルテーションといった支援そのものではなく,支援を行うための足場や土台,環境をどう作るかに焦点をあてた研究をしたいと思うようになりました。
 そこでSCを続けながら社会人大学院生として大学院へ入り,研究させていただいたことが二本の論文や博士論文へとつながりました。その過程では,指導教官である田嶌誠一先生をはじめ学内外多くの皆様の辛抱強いご指導とご支援をいただきました。とても私一人の力では論文をまとめることはできませんでした。
言葉ですべては表現できませんが,あらためてここに感謝申し上げます。
 今回の奨励賞で励ましていただいた研究は私自身の土台となり,今は学校の学級の荒れ,暴力,いじめといった問題に取り組んでおります。これまでの多くの皆様へのご恩を忘れずに,それを学校や地域で暮らす子ども達へ順送りしていけるよう,これからも実践と研究へと取り組んで参りたいと思います。

平成25年度 第23回 奨励賞

古賀 聡 氏
平成25年度奨励賞を受賞して

この度は、日本心理臨床学会奨励賞を頂きまして大変光栄に存じます。
これまでご指導頂きました九州大学の先生方、病院スタッフの皆様に深く感謝致します。心理劇で出会った患者さん方、事例研究としての発表を了承してくださった方々に感謝致します。
針塚進先生には学部生の頃からご指導頂きました。臨床心理学を学ぶきっかけを作って頂いたのも先生ですし、その後も心理劇実践のご指導、論文作成に関するご指導を頂きました。受賞講演でも話させて頂いたように、私は学生の頃、心理劇に強い抵抗がありました。心理劇の授業はできるだけ先生の目にとまらないように隠れ続け、ワークショップでは非常階段から逃げ出したこともありました。さらに研究活動にも自信がもてず迷い続ける私でしたが、先生はいつも笑顔で、大きな声で「いいとて、大丈夫」と励ましてくださいました。
また、このような弟弟子を遠く沖縄から励まし続けて下さったのが、講演で司会をお引き受け頂いた古川卓先生でした。課題から逃げてばかりの私を見守り、励まし、ご指導頂きました針塚先生、古川先生に深く感謝申し上げます。
そして、西日本心理劇学会の先生方にも御礼申し上げます。少し「おとな」になり心理劇に向き合い始めた私の自己表現の場が西日本心理劇学会でした。博士課程の頃から、毎年、研究発表をさせて頂きました。私のささやかな気づきや疑問でも、先生方は真剣に議論して頂きました。西日本心理劇学会での研究発表、論文投稿を通して心理劇に対する理解を深め、今回の受賞の対象になった論文の作成へと展開しました。西日本心理劇学会や日本心理臨床学会の学会誌に投稿して非常に大切な示唆を頂き、励まされ、自分の世界を創ることができたと思っています。
私は、昨年度、非常勤時代から含めると14年間勤務した病院を辞め、母校九州大学の教員となりました。これからも、これまで導いてくださった先生や先輩方から受けたご恩に報いるべく、後輩たちの指導に取り組みながら、私自身も心理臨床の道に精進して参るつもりです。どうぞよろしくお願い申し上げます。


東畑 開人 氏
平成25年度奨励賞を受賞して

このたびは栄誉ある奨励賞を授与いただきましたことに、心より感謝いたします。
大学院を卒業して、私はフルタイムの臨床職として働くことになりました。一度、どっぷりと臨床に身をうずめることが自分には必要だと感じていたからです。その理由は二つありました。
ひとつは、臨床で生計を立てるという緊張感の中で、「普通に役に立てる臨床家」になりたいと思っていたことです。それは私にとっては、この学問を選んだことの責任でした。
もうひとつの理由は、この風土や文化の中で生じる雑多な臨床の現実を、心理学することにしか、「心理臨床学」のオリジナリティとクリエイティビティはないのではないか、と少々気負って考えていたことにあります。ですから、私にとって真摯に研究を行うためには、臨床の中に住まうことが必要でした。
いずれにしても、そのような気持で沖縄に飛び、ここ数年、日中はクライエントとお会いし、早朝に論文を書く生活を続けてきました。「心理療法とは一体何だろうか、臨床的に、そして社会文化的に」ということを考え続けています。しかし、当然、何事も目論見通りにはことは運びません。臨床も研究もなんて果てしない道なのだろう、自分はどこかで大きな勘違いをしているのではないか、と途方に暮れていた頃に今回の奨励賞のお知らせをいただきました。ですから、奨励賞は私にとっては字義通り「励まし」となるものでした。
単純な私が少し浮かれて、恩師に御報告申し上げたところ、「これから頑張れということやで」と戒めと激励の言葉を頂きました。その言葉を胸に、これからも自分なりの臨床と研究に取り組んでいこうと思っています。そういうことを通じて、私に多くのものを与え続けてくれている心理臨床学に、少しでも恩返しすることが出来ればと思っています。
末尾となりましたが、多忙な中授賞式の司会をお引き受けくださり、日々ご指導いただいている皆藤章先生をはじめ、山中康裕先生、岡田康伸先生、藤原勝紀先生、松木邦裕先生、片本恵利先生、多くの先生方から受けた大きな学恩と、私に多くをお教えくださったクライエントの方々に深く感謝いたします。

平成24年度 第22回 奨励賞

青木 佐奈枝 氏 (筑波大学)
平成24年度学会奨励賞を受賞して

学会奨励賞受賞のご連絡をいただいたのは春先で、あるケースの件で悩み、自分の至らなさを痛感していた時期でしたので、受賞をありがたいと思いつつも、とても手放しでは喜べずに困惑し、複雑な気持ちで受け止めました。そして、受賞講演をさせていただいたのは夏の終わりで、今度は別のケースに悩み、また、後進の指導で迷いもあった時期でした。受賞講演前の控室で師匠と溜息交じりに会話をしつつ、しみじみお茶を飲んだ記憶があります。それでも講演時は大勢の先生方に集まっていただき、そのお気持ちの暖かさにとても勇気づけられました。講演後に少し前向きな気持ちになれたのを覚えています。ありがとうございました。そして、この原稿を書いている今春は、またしても別のケースについて悩み、仕事全般にも頭を抱えている時期でもあります。
こうして考えてみると私はいつも悩んでいるなと思いました。元々、職人家系に育ち「これでいいと思った瞬間に後退が始まる」「悩まぬところに前進はなし」の空気の中で育ちましたので、悩むということは馴染みあるものではありました。ただ、人並み外れて不器用でしたので家訓はともかく悩まないことには本当に先に進めないということもありました。しかし、若い時分は歳を重ねたら少しは楽に悩めるようになるのであろうと甘い幻想を抱いておりました。…が、そういうわけでもないらしいことがわかる歳になりました。
そのような悩んでばかりの臨床活動の中から生まれた拙い論文に、今回、目に留めて下さった方がおられることを大変ありがたく思います。ご褒美をいただいたような気分になり励みになりました。その一方、ここで甘えずに、今後とも丁寧に仕事をしていこうと気持ちを引き締めるきっかけにもなりました。どうもありがとうございました。
最後に、ここまで私を育てて下さったすべてのクライエント、支えて下さった諸先生方はじめ周囲の大勢の方々に心より感謝いたします。ありがとうございました。今後とも精進致します。

平成22年度 第20回 奨励賞

壁屋 康洋 氏

奨励賞を頂いて

壁屋 康洋 氏

 このたびは平成22年度心理臨床学会奨励賞を頂き、誠にありがとうございます。
 このような賞を頂けるとは全く思いもよらないことで、受賞の通知を頂いた時は何かの間違いではないかと思いました。私自身、受賞の対象となった論文がそれほど優れたものとは思っていませんでしたので、実際に会員集会の場で賞を頂くに至り、学会として医療観察法医療における心理臨床に対してスポットライトを当てようという意図を持たれたのではないかと推測しました。そうだとしてもそれは非常に喜ばしいことです。医療観察法医療における臨床は、加害者に対する強制医療の中で行われるものであり、新しい分野であるとともに、これまでの心理臨床学のメインストリームとは異なる特殊性をもつものと思って私はこれまでの発表を行ってきました。それは同じ領域で臨床に取り組む仲間と情報を共有するためでもあり、また他の領域の先生方に対して私達の領域を伝えるためでもありました。医療観察法医療の現場で働く臨床心理士は170名を超えておりますので、それほど少ない人数ではないのですが、私の奨励賞受賞を機に多くの学会員からこの領域がより注目して頂けるようになれば幸いです。
 このように、私は自分の論文に対する受賞というよりも医療観察法医療における心理臨床へのスポットライトとして今回の受賞をとらえていますので、同じ領域で働く仲間を代表して頂いたものと思います。それは心理臨床学会で自主シンポジウムを毎年企画されてきた高橋昇先生をはじめとして、共同研究にご協力くださっている医療観察法病棟の臨床心理士の方々、また少ない人員配置の中で通院医療に取り組まれている方々のおかげでもあります。心から感謝申し上げます。

平成21年度 第19回 奨励賞

佐々木 玲仁 氏

奨励賞をいただいて

 この度は平成21年度学会奨励賞をいただき、大変光栄に存じます。誠にありがとうございました。
  受賞の対象になった2本の論文は、いずれも大変地味なものであったと思います。1本目の「風景構成法研究の方法論について」は、風景構成法がテーマになりながら論文中に1枚の描画も載っておらず、ただただ方法論について論じているものですし、2本目の「風景構成法に顕れる描き手の内的なテーマ」は風景構成法の臨床場面でないところで施行し、かつただ1人分の描き手のデータだけを用いて論じているものです。どちらの論文も自分なりに工夫を重ねたものですし、一定の到達点にはたどり着いているという自負が全く無かったわけではありませんが、いずれにしてもこのような形で表に出るという種類のものではないと考えていました。正直なところ、実際に授賞式で賞をいただくまでは半信半疑といったところでした。このような、ひっそりと埋もれてもおかしくない論文に光を当てていただいたことに、本当に感謝いたします。
  これらの論文につながる研究は、もちろん自分一人の力で作り上げたものではありません。厳しく、また親身にご指導いただいた山中康裕先生、桑原知子先生、皆藤章先生、角野善宏先生、調査立案から執筆に至る各段階でディスカッションしてくれた多くの人たち、そして何より調査にご参加いただいた協力者のみなさんに心から感謝申し上げます。
  「奨励賞」というものは何かしらの到達を示すというよりも、これから発展していくことを奨励していただいている賞だと思われます。これからも臨床実践の場で有効で、かつ方法論的に洗練されている研究を目指して妥協することなく研究を続けていきたいと思っております。今回はありがとうございました。


仲 淳 氏

奨励賞を授与していただいて

このたび奨励賞を授与していただき、とてもありがたく、また畏れ多く思っております。
最初はにわかに信じ難く、通知の中の「奨励賞」の文字を目にしたときには、一般会員として奨励賞候補の方を推挙する係のようなものに当たったのかと思ったくらいでした。
  自分のことだとわかったときに喜びの気持ちとともに胸の奥からこみ上げてきたのは、暑い日や寒い日にも休まず面接に通ってきてくださったクライエントのみなさんに対する畏敬の念と感謝の思いでした。深い苦悩や耐えがたい痛みを抱えながらも何とか生きていこうとされるクライエントさんお一人お一人がいらっしゃったからこそ、一介のカウンセラーとしての今の自分がいるのだと、恥ずかしいことながら今回初めて少しからだで自覚することができたような気がしています。 
  振り返ってみれば、私はこれまで本当にたくさんの人に支えていただいてきました。 
学部生のころより長らくご指導いただいています岡田康伸先生、山中康裕先生、齋藤久美子先生、伊藤良子先生、河合俊雄先生、大山泰宏先生。大学院時よりご教示いただいています東山紘久先生、藤原勝紀先生、桑原知子先生、秋田巌先生、皆藤章先生、角野善宏先生。学会発表に際して座長をお引き受けいただきました川戸圓先生。現在天理大学にてご指南いただいています先生方。諸先輩方や後輩のみなさん。こどもパトナカウンセリングセンターのみなさん。そしてお互いに励まし合ってきた大学院の同期の仲間といつもそばにいてくれている家族と両親。ここには到底書き尽くすことのできないもっともっとたくさんの方々に、何度も何度も折に触れて助けていただいてきたからこそ、今の私があるのだと思います。お一人お一人のご厚意に、心から感謝したいです。
私はまだまだ視野が狭く、失敗も多い人間なのですが、これからは人の心に携わる者としての自覚と責任をより強く持って、少しずつでも社会に貢献してゆければと思っております。また今後とも皆様の厳しいご指導とご鞭撻のほどを、どうぞ宜しくお願いいたします。このたびは本当にどうもありがとうございました。

平成20年度 第18回 奨励賞

大前 玲子 氏

奨励賞を受賞して

大前 玲子 氏

 この度は、学会奨励賞をいただきまして大変光栄に存じます。これも、私に関わってくださった皆様のおかげと感謝しています。
  1980年10月、私は東京・八王子での「心理臨床家のつどい」に参加し、その後、「日本心理臨床学会」となった本学会より1982年6月1日に正会員として承認されました。その学会から思いもかけず、このような大きな賞をいただけるなんて感無量です。八王子では大学セミナー・ハウスに全員が泊まりこみ、これから「臨床心理学の学会を新しく創っていこう!」という先生・先輩方の熱気がむんむんしている中で、当時まだ駆け出しだった私はワクワクしながら事例の検討会に参加していたことを思い出します。
  私は、大学を卒業後、子どもの心理臨床がしたくて大阪府下の公立教育研究所で、11年あまり、教育相談係として幼児期から青年期のクライエントとその両親に対して、心理臨床の実践に当たって参りました。心理療法の技法として、ロジャーズのクライエント中心療法とユングの分析心理学をベースに、箱庭療法や描画療法を取り入れていました。その後、転勤により公立小学校に教員として勤務することになりましたが、1989年臨床心理士の資格を取り、小学校現場では心理療法の視点を取り入れた学級作りをテーマに教育実践をしていました。その間、派遣された大学院では、認知療法を研究テーマとしました。2003年、大学院博士後期課程に進学し、今まで実践してきた箱庭療法などのイメージ表現と認知療法の統合についてをテーマとしました。志向の違う心理療法の統合という難しいテーマでしたので、何度もくじけそうになりましたが、今回受賞対象になった2論文がもとになり、博士論文を書き、学位を取得することができました。これも、心理臨床学会誌に投稿する際に非常に有益な示唆をいただき、大いに励まされ、論文を書くことができたからといっても過言ではないと思います。これからも、これまで導いてくださった先生・先輩方から受けたご恩に報いるべく、心理臨床の道に精進して参るつもりです。どうぞよろしくお願い申し上げます。


土屋 明日香 氏

奨励賞を受賞して

土屋 明日香 氏

 臨床心理学研究を志す者にとって憧れである奨励賞に、まさか私が選ばれるとは思いもせず、ただただ驚き、感謝いたしております。
  私は、「関係性」をテーマに研究しています。受賞対象となりました最初の論文では、情動が、他者の身体と呼応しあう関係の只中から浮かび上がる現象を捉え、「照らしあい」という新しい概念を提示しました。次の論文では、他者理解が、自分の身体で他者の在り様をなぞり、かつずれていくという両義的な営みによって進むことを示し、「なぞり」と「ずれ」による他者理解の様相を明らかにしました。これらの研究を通して、Descartes以来続く、個人の内に「閉じた」独我論的な「心」観を越え、身体性に根ざした「関係としての心」という新しい観点と、それに基づく心理援助の可能性を模索してまいりましたが、その成果を評価していただき、深く感謝申し上げます。
  このような栄誉ある賞をいただくことができましたのは、多くの先生方からのご指導の賜物です。近藤邦夫先生、保原三代子先生、田中千穂子先生、下山晴彦先生、亀口憲治先生をはじめ東京大学心理教育相談室の先生方には実践の基礎をご指導いただきました。また大場登先生、濱田華子先生をはじめ山王教育研究所の先生方、R. Bosnak先生、菅野信夫先生、神田橋條治先生には現場での援助の実際を学ばせていただきました。浜田寿美男先生、森岡正芳先生をはじめ奈良女子大学大学院人間文化研究科の先生方、また東京大学大学院教育学研究科の先生方からは、研究について学際的なお立場からご指導いただきました。さらに学会発表の際、座長をお務めくださいました渡辺雄三先生、上田裕美先生、また匿名の査読者の先生方からも貴重なご意見をいただきました。
  このように考えますと、実践も研究も私個人の力ではなく、「関係性」の網の目の中でようやく形になったものと実感いたします。この受賞を契機とし、今後も実践、研究に励んでいく所存です。ありがとうございます。

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